乳房超音波トレーニングブック〔改訂版〕

改訂版について

 改訂の目的は,日本乳癌学会「乳癌取扱い規約 第18版」への準拠です.これによって診断名の齟齬が解消され,初学者でも学びやすい一冊にアップデートされました.また「画像を読む力を高める」という企画の狙いに即して,一部の症例や画像を差し替えています.本書に先立って改訂された『コンパクト超音波neo 乳房アトラス〔第4版〕』と合わせて,乳房超音波検査のスキルアップにご活用ください.

改訂版のはしがき

 乳房超音波トレーニングブックが刊行されて,13年半も経っていました.初版のはしがきにも書いたように,超音波画像の読み方は,私が超音波をはじめた1980年代から大きく変わることはないと考えております.したがって,本書はずっと皆様のお役に立てるものと思っておりました.ところが,「臨床・病理 乳癌取扱い規約」の内容が,2018年に発刊された第18版で変更されました.それ以前から乳癌診療に携わり,その変更点を理解されている方々は,頭の中でその用語を変換しながら本書を読んでいただくことも可能ですが,最近になって乳癌を学びはじめた方々にとっては,不親切で使いにくいものとなってしまいました.本当はもっと早く改訂するべきでしたが,「コンパクト超音波neoシリーズ 乳房アトラス」の改訂を優先したため,少し遅れることになりました.この先,しばらくは乳癌取扱い規約が改定されないことを祈るばかりです.
 さて,本書に書かれた超音波診断名は,乳癌というだけでなく,浸潤性乳管癌(硬性型)や粘液癌といったような組織型までを記載しています.一方,「画像診断は悪性か良性かがわかればいい」とか「刺すか刺さないかが決まればいい」という声も聞こえてまいります.つまり,「近年ではサブタイプによって治療方針が決まるわけだから,針生検をしてみないことには何も決まらない.超音波検査の段階で組織型を推定したところで何の役にも立たない」ということです.確かににそうだと思います.そもそも私は組織型を言い当てることを目指していたわけではありません.良悪性の診断のさらに一歩先に組織型の推定があるということではないのです.乳癌の組織像は多彩で,画像上もさまざまな像を呈します.たとえば,同じ乳癌であっても浸潤性乳管癌の硬性型と粘液癌はかなり異なった印象です.むしろ粘液癌は良性の線維腺腫に近いかもしれません.つまり,「これぞ乳癌」といえる乳癌の典型像そのものが存在しないわけですから,頭の中でさまざまな組織像を思い描きながら診断しなければ良悪性の鑑別にはたどり着きません.つまり,組織型の推定は良悪性診断の手前の段階にすぎないのです.この考え方ができない方は,悪性と良性の鑑別ポイントを探そうとします.世の中の乳癌検診ガイドラインもその考え方でつくられています.ですから読者の皆様には,できるだけ早くガイドラインから卒業していただくことをお勧めします.そして,しっかりと組織像を想像しながら深く超音波画像を読めるようになるためのトレーニングブックとして,本書がお役に立つことを願っております.

見本ページ

▶ 本書の使い方
▶ 症例11〜12
▶ 症例62〜63
▶ 症例118〜119
▶ 疾患別Case一覧

本書の構成(目次に代えて)

はしがき
本書の使い方
症例1〜150
疾患別Case一覧